CAT'S EYE(猫の視点)

風車と時の水脈

e0089531_21342541.jpg地下鉄みなとみらい線 馬車道駅から赤レンガ倉庫の方角へ歩くと、遠くに風車を見ることができる。

これはハマウィングという名の風力発電施設であり、住民有志による「ハマ債風車(かざぐるま)」と企業協賛によって建設され、2007年3月に稼働を開始した。

昨年度までの年間平均発電実績は約223kWh。たった1台の風車とはいえ、2009年度の発電量は一般家庭の年間消費電力で約660世帯分に相当する。

風力発電所は、騒音や万が一の事故などに備え、人家から離れた場所に建てられるが、ハマウィングは一般人がふだん近づくことすらできない。横浜ノースドッグと呼ばれる米軍基地内の小型艦隊の並ぶ、瑞穂ふ頭に建てられたからだ。

以前、国内外で活躍する風車アーティスト朝岡あかね氏の呼びかけと、建設の事業主体である横浜市地球温暖化対策事業本部の協力もあり、見学ツアーという形でその場所を訪れる機会に恵まれた。埋め立て地となっている埠頭につながる橋を渡ると、そこは横浜でいてアメリカの土地でもある場所となる。

風車に近づくと、低いうなり声が聞こえた。「風車は風という目には見えないものを可視化するの。それに電気は人工物の象徴とも言えるけど、風車はそこに人がいなくても電気を生み出す。その一見当たり前に見える不思議さに私は魅せられてしまったの」と、ツアーを企画する時に朝岡氏は熱っぽく語っていた。

その話を思い出しながら、私はその場所の風景が時間の裂け目であるかのように感じていた。錆び付いたフェンス越しの荒れた草原の向こう、ギラギラとした陽光が作る光と影の強いコントラストの中に浮かぶ軍事基地は、いまだ稼働しているにもかかわらず、打ち捨てられた過去の遺物のように見えた。

それはおそらく目の前に白くそびえる風力発電所である風車が、人と自然界の共生を模索する近未来の文明を予感させるものであり、少なくとも戦争とは対局にある存在に感じられたからだと思う。

そして足もとに目をやった時、またもう一つの象徴を見つけた。どの土地からこの埋め立て地に運ばれてきたのか、風車周辺の砂利の多くがガラスのように黒光りしていた。拾い上げて欠けた断面を見ると、それは確かに黒曜石であった。

生活用具の材料として黒曜石が使われた歴史は2万年とも3万年とも言われ、人類の文明の起源を探る手がかりにもされている。過去と未来の狭間とも言える場所で、突如見えない地下水脈から水が噴き出るかのように無数に散らばる黒曜石。それは道具の歴史の始まりの象徴のように思えた。

道具は人類の歴史とともに形を変え、軍艦が象徴する文明の形、風車が示唆する文明の形を見せるようになった。私たちはどこから来て、どこへ向かうのか。風車と軍艦と黒曜石を交互に見ながら、私はそんなことを考えていた。

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by mikeneko301 | 2012-09-11 21:40 | 散歩
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